私が、憎んだのは。

愛しいあの人を奪い、私の幸せを壊した、人は。


あまりにも。

そう、あまりにも、優しすぎたの。





Like in the deep sea






毎夜綴っている日記が、私からあふれ出す言葉が、もう嘘をつけなくなっていると
気づいてから随分と経ってしまった。
知れば知るほど、自分の中の感情が揺れ動いて傾いて。
どうすればいいのか分からなくなる。



だって、もともと感情を表に出すのが苦手な私が、笑っているの。

あの人の側で、隣で。


目的を、忘れたわけじゃない。
彼が、愛しい人を、幸せを奪ったことに、違いはない。
それは、変わらないのに。


知ってしまったのよ。

綺麗すぎる、汚れを知らない心を。
まっすぐな、意思を。
それ故の、苦悩を。

そして、優しく笑う、貴方を。



震える文字に、書きかけのままの日記を閉じた。
衝立の向こうで、刀を抱えたまま眠る彼を思う。
机に突っ伏したら、収まりのつかない感情が涙になって頬を伝った。


だって。

彼は。


人を、斬らない彼は、あまりにも優しすぎるの。







初出20080928 / 再掲20110103